1/2の記事「シチリアへの憧憬・・・その2」の続きです。
TAORMINA(タオルミナ)、何と甘美な響きでしょう!
今日はそのタオルミナでの出来事を書きます。
アグリジェントからパレルモに無事帰還を果たした私は翌日タオルミナに向かいました。
出発は午後にしましたので、それまでパレルモで未だ行っていなかったカタコンベ(骸骨寺)へ足を向けました。
ここのカタコンベの正式名称はCatacombe dei Cappuccini【カタコンベ・デェィ・カップチーニ】と言い、
映画「ツイン・ピークス」のモデルとなった2歳の女の子「ロザリア」のミイラがある事で有名です。
パレルモ市街から外れにあり、バス移動&徒歩で到着しました。
観光客が多くガヤガヤした入り口周辺とは違い、中はヒッソリとしています。
地下に降りて行くと、壁や床に両手を前に組んで頭を垂れた骸骨が展示(?)されていて、何やら不気味です。
何だか“いらっしゃいませ”とお辞儀されているみたいです。
カタコンベ・デェィ・カップチーニと言う名称ですので、骸骨は恐らくカプチン派の修道僧なのでしょう。
お目当ての「ロザリア」は一番奥の小さな棺の中に安置されていました。
1920年代から安置されているそうですので、生きていれば相当なお婆さんです。
保存状態は良好でとてもミイラには思えません。
頬はピンク色で、頭に白いリボンを付けていて、まるで本当に眠っているかの如くです。
「・・・」
暫し固まってあれこれ空想に耽る私でした。
カタコンベ・デェィ・カップチーニを出て、
市街をブラブラしながらパレルモ中央駅近くでシチリア名物「アランチーニ(ライスコロッケ)」に舌鼓を打って、
いざタオルミナへ出発です。
旅は各駅停車の電車が最高です。
電車に乗り合わせた現地住民の生の声、生活の声が聞けます。
この時は途中で中学生と思しき学生が大挙して乗り込んで来ましたので、シチリアの学校の話、女の子の話、社会の話が聞けました。
何しろイタリア人です。周りの迷惑を考えず(?)大声&ゼスチャー付きで話しまくります。
そうこうしているうちに電車は沿岸をひた走り、名も無い様な漁村の駅(これがまた良い!
映画「ニュー・シネマ・パラダイス」や「マレーナ」のロケ地か?と思わせる程、シチリア情緒タップリです!思わず途中下車してトト少年を探しに行きたくなる雰囲気です)を通過して、目的地タオルミナに到着しました。
この時点で私にタオルミナに関する予備知識は、ほぼ皆無でした。
ただギリシャ劇場がある風光明媚な地らしいと言う事だけです。
勿論、ここが映画「グラン・ブルー」のロケ地という事も知らねければ、
世界中からお金持ちが集る高級リゾート地である事も知りませんでした。
電車を降りて駅構内を通過して表に出ると、
「エッ!?」、「こ、、、これがタオルミナ!?」
と絶句してしまう程、殺風景で何もありません。
思わず後ろを振り返って駅の看板を確かめると、確かに“TAORMINA GIARDINI”と書いてあります。
「で、これから一体どうすりゃ良いの・・・?」と暫く考えて、駅の隣にあるイタリア版キオスク(そんな立派なお店ではないけど)に相談しに行きました。
人気の無い店に入って
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私「すいません、どなたかいますか?」
店「・・・・・・・・・・・・・」
私(もっと大声で)「すいません、お願いします!」
店員「・・・、あいよ~」(余りに暇なので寝ていた様子)
私「すいません、観光で来たのですがギリシャ劇場にはどう行ったら良いのですか?」
店員(面倒くさそうに)「バスかタクシーで行きゃいいさ」
私「バスは何処から出ていますか?」
店員「この駅前から出てるよ。切符はここで買っておくれ。」
私「じゃ~、お願いします。」
店員「・・・」(無言で何やらゴソゴソ)
白い紙を無造作に取り出して、バチンと刻印して
店員「はい、切符。」
そこには青いインクで何やら切符らしき文字が刻印されていました。
店員「それを乗車する時に運転手に渡せばOKさ。」
私「・・・」
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現代生活に慣れてしまい、綺麗にデザインされた印刷物を当たり前の様に見慣れた私にとって、そのプリミティブな切符は衝撃的でした。
キオスクを出て駅前でポカンとバスを待っていたら、何やら見覚えのある顔が・・・。
そう、昨日アグリジェントのバスで一緒になったスイス人夫婦が歩いていたのです。
向こうも駅前で所在無さげに立ち竦んでいる東洋人を発見したらしく、
スイス人夫婦「お~い、君!」
私「あッ、ど~も!」
偶然の再会にお互い驚き、暫し立ち話&情報交換をしました。
何でもこのスイス人夫婦は昨日のうちにタオルミナ入りし、これから一週間のんびりと滞在して、イタリア本土を縦断してスイスに帰るそうです。
夫婦はここタオルミナを絶賛していましたが、カルチャーショックを受けたばかりの私にはこの時点でタオルミナの良さを到底理解出来ませんでした。
情報によると、タオルミナ旧市街はこの駅の遥か上、丘の上にあるそうで、ギリシャ劇場もそこにあるとの事でした。
※ このスイス人夫婦から聞いて初めて分かったのですが、現在この夫婦が暮らしているスイスの地区ではフランス語とドイツ語、英語が公用語だそうです。
夫婦が学生だった頃はフランス語とドイツ語だけで、英語は公用語ではなかったそうです。
そのためこの夫婦は全くと言って良い程、英語が話せません。
私の方は丸っきりドイツ語が話せませんので、夫婦との会話は全てフランス語で行われました。
現在、学校ではフランス語の授業は無く、フランス語が得意な夫婦はフランス語が話せない孫とのコミュニケーションに四苦八苦しているそうです。
多言語国家の複雑な事情を垣間見る事が出来ました・・・。
そうこうしている間に、バスは駅前に到着し、スイス人夫婦の旅行の無事を祈願し、別れを惜しんでバスに乗り込みました。
そして先程キオスク(?)から購入した切符を運転手に渡すと、片手に持ったパンチャーで“パチン”と中に穴を開けて私に返しました。
これが使用されたという証なのでしょう。
「えッ!・・・」と呆気に取られている東洋人を無視してバスは走り始めました。
そう、確かに原理的にはどんな形であれ、支払った代金に見合ったサービスを提供してくれれば問題はありません。
例えそれが向こうが見える程薄いペラペラの白い紙を手で作った乗車券であれ、
例えそれが人力パンチで穴を開ける証明であっても・・・、
それで通用しているルールであれば、それで良いのです。
そんなシンプルな事を改めて認識させてくれた数時間でした。
(それにしても、衝撃的でした)
衝撃的なバス乗車券はこれだ!
バスは旧市街を目指してドンドン丘を登って行きます。
バスの車窓から見える景色は青いイオニア海が、空の青さと競い合って何処までも続いています。
1月初旬だというのに、この陽気は秋田生まれの私には反則技にも思える程です。
丘を登るにつれて道幅はますます狭くなって行きます。
フト路肩を見ると、
「エッ!」、ガードレールがありません。
乗用車同士の対面通行もままならない程の狭さなのに、「落ちたらどうなるの?」といった東洋人の不安をよそに、運転手は鼻歌交じりでビュンビュン飛ばして丘を登って行くのでした。
程なくしてバスは少し広い場所に到着しました。
運転手「え~、皆さん。大変お疲れ様でした。只今バスはターミナルに到着しました。どなた様もお忘れ物無きよう、お気を付けてお降り下さい。」
「えッ!、ここがターミナル、終点なの!?」と思ったのですが、乗客は皆下車しましたので仕方なく私もバスから降りました。
バスターミナルにはタクシーと思わしき車が数台待機しています。
その全てが何とメルセデス・ベンツです!
一緒にバスから下車した乗客はベンツタクシーに荷物を積み込み、何処かへ消えて行きます。
貧乏東洋人の私にはベンツタクシーなんぞ恐れ多くて、とても乗車出来ません。
かくなる上は、徒歩しかありません!
土産でパンパンになったスーツケースを“ガラガラ”音を立てて、石畳の丘を登って行きました。
途中、通行人の好奇の目が注がれるのも気にしないで、ひたすら丘の上を目指して歩いて行きました。
歩く事凡そ15分、ようやく旧市街らしき場所に到着です。
タオルミナ旧市街の入り口であるポルタ(門)をくぐると、そこは大勢の観光客で賑わう広場でした。
広場の一角にタクシー乗り場があり、そこでドライバーにホテルの場所を尋ねると、目の前の道を真っ直ぐ行った突き当りとの事。
そこから約1分でタオルミナ滞在ホテルであるTIMEOにやっと辿り着きました。
入り口付近から見るホテル外見は鬱蒼とした蔦で覆われていて、何だか怪しい雰囲気が漂います。
しかし、一歩中に入ったらそこは別世界(!)、高級感一杯の超デラックスホテルでした!
フロントの女の子は可愛いし、教育が徹底されています。
貧相なジーパン姿の東洋人には似つかわしくない、そんなホテルです。
チェック・インを済ませて部屋へ移動する時も、その女の子が帯同してくれて、部屋の説明もしてくれました。
部屋の床は全て大理石。
そして窓を開けてバルコニーへ出ると、
右に旧市街を抱えたエトナ山、
左には湾に沿って何処までも青く延びるイオニア海・・・。
絶景です。
こんなパノラマが存在する事が信じられません。
ホテルのウェルカムカード
暫し、絶景を堪能し俗世間から逃避しておりましたが、
お腹は“グウグウ”と鳴り、俗世間行きを要求してきます。
「よ~し、そろそろ飯にしよう!」とホテルを出て、旧市街へと向かいました。
「確か先程くぐったポルタの傍にレストランがあった筈」との記憶を頼りに歩いて行くと、ありました、ありました。
(店の名前はTOROCADERO、ポルタ・メッシーナの直ぐ右側のレストランです)
席に案内されメニューを見て、
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私「Senta, Posso ordinare questo piatto? Mmm・・・, spaghetti ai ricci di mare.」【すみません、ん~と、ウニのスパゲッティをお願い出来ますか?】
カメリエーレ「Si, ma da bere?」【はい、飲み物は如何なさいますか?】
私「Avete vino casa?」【ハウスワインはありますか?】
カメリエーレ「Si, certo.」【はい、ございます。】
私「Allora, lo prendo, grazie.」【じゃ~それを下さい。】
カメリエーレ「Subito.」【直ぐにお持ちします。】
私「Ah・・・, Un momento, Mmm・・・, Ho una fame da rupi, doppo gli spaghetti, anche un piatto di scaloppine al limone per favore.」【あ~、ちょっと待って下さい。ん~と、物凄くお腹が空いているので、スパゲッティの後に子牛のレモン風味ソテーも下さい。】
カメリエーレ(少しニヤけて)「D’accordo!」【かしこまりました!】
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カメリエーレの笑いが少し気になったのですが、
運ばれて来たワインを飲みながらここタオルミナの事を考えてみました。
思うに「タクシーは全てベンツだし、イタリアの国民車フィアットは皆無だし・・・」、
「ホテルは超豪華で部屋の床は大理石だし・・・」、
「ガラガラ音を立てて鞄を引きずっている観光客はいないし・・・」、
「浮ついた観光客は少なく、紳士淑女が多いし・・・」、
「もしかしたらタオルミナって世界中のお金持ちやセレブ達が集る場所なのではなかろうか?」
と事前に下調べをしなかった事を反省しているうちに、頼んだウニのスパゲッティがテーブルに運ばれて来ました。
私「えッ!・・・、何これ!」
ようやく先程カメリエーレがニヤけた意味が分かりました。
物凄い量です。
ザッと350~400グラムはあるであろうスパゲッティです。
普通日本で出される量の3~4倍はあります。
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カメリエーレ「Buon appetito!」【ごゆっくりお召し上がり下さい!】
私(思いっ切り慌てて)「Ah・・・, S, Scusi, doppo di mangare questo piatto, io non posso mangare di più. Cacellare il piatto di scaloppine al limone, per favore.Mi scusi!」【あ~ッ、す、すみません、このスパゲッティを食べたら、も、もうギブアップです。さっきの子牛のレモンソテーはキャンセルして下さい!済みません!】
カメリエーレ(してやったりの表情で)「D’accordo!」【かしこまりました!】
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と、完敗宣言して店を後にしました。
如何にお腹が空いていようが、そこは東洋人の悲しいところ、あの量にはなかなか勝てません。
でもウニの味はとても良く、少し塩気の多いシチリアのスパゲッティとはとてもマッチしていました。
ワインとあの量のスパゲッティではリーズナブルな値段で、大変満足&満腹して夜の旧市街地へと探索に出かけました。
※ 後日シチリア人にウニの話をしたら、「ウニの味が分かるのはシチリア人と日本人だけだ!」と、大いに盛り上がりました。(本当かな?)
夜のタオルミナ旧市街は日中と違い、
ボンヤリとしたオレンジ色の街灯と商店からの明かりが映し出されて、落ち着いた雰囲気の表情を見せます。
歴史を感じさせる教会、
人々が憩う広場、
観光地化されていない路地に足を踏み入れれば、そこは中世さながらの趣きを残しており、 濃密な時間を過ごした今日一日に想いを馳せる私でした。
(本当にカルチャー・ショックも相当受けて、優に一ヶ月分に相当するのではないか?と錯覚するほどの濃い一日でした)
さて、翌日はシチリア最終日。
イタリア本土へ上陸するとまたもカルチャー・ショックを受けるのですが、その話は後日に。
今日の曲はそのものズバリ!TAORMINA【タオルミナ】
作曲と演奏:秋田杉
「Taormina.mp3」をダウンロード
(殆どがアドリブ部分ですが)お楽しみ下さい。
ところで、本日私は2007年初釜家族茶会を開きました。
今年初のお茶も上手く立てる事が出来て満足です。

綺麗に立てたつもりの抹茶
飲み跡もスッキリ!
お茶菓子は今年の干支である猪をあしらった羊羹と
良く分からない和菓子です。
今年は良い年である事を願っています。
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